判例の小窓 bP(平成23年10月) 



【コメント】
 最高裁判所は、マンションなど居住用建物の賃貸借契約で交わされる敷引特約は有効であるという判決を下記のとおりしました。敷引特約は、本来賃借人が負担しなくてもよい通常損耗の補修費用等を賃借人に負担させるものですから民法の賃貸借の規定に比べて賃借人に不利益なものです。この判決は敷引特約で紛争が未然に防止されると指摘しますが、敷引特約の名の下に通常損耗の補修費用以上の額が敷金から控除されたり、敷引特約で差引かれた上で更に特別損耗の補修費を請求されることもあり、紛争防止ができないケースが珍しくありません。今後は、特約の適用範囲を狭める法解釈などが求められます。

@最高裁判所平成23年3月24日第一小法廷判決
A同      平成23年7月12日第三小法廷判決

「敷引特約」は有効

 個人がマンションなど居住用建物の部屋を賃借する場合に貸主に対し支払った敷金、保証金について、賃貸借が終了して明け渡しが完了した後に一部のみを返還するという趣旨の特約が入っていることが珍しくありませんが、この特約は、以下のような事実関係のもとでは有効です。(賃借人敗訴)
1 契約書に「敷引特約」条項が明文で記載され、率あるいは金額で差し引かれる額が明確になっていて、契約締結にあたり認識できること
2 その趣旨が、本件@の事例では、貸室の賃貸借期間中の通常の使用による汚損(通常損耗等)については敷引金をもって宛て、貸主はそれ以上の請求をしないと読みとれ、明け渡し完了後の無用な紛争を回避することにあると認められること(極端にひどい使用による特別損耗については、敷引のみでは解決されないこと)、本件Aの事例では、保証金のうち所定の敷引額が返還されないことが契約書に明記され、賃借人がこれを明確に認識していたこと
3 敷引の額が、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、高額にすぎると評価されないこと
4 本件@の事例は、賃料月額9万6000円、保証金40万円で、賃貸借契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円(期間1年未満のとき)ないし34万円(期間5年以上のとき)を敷引金として保証金から控除するという特約であって、敷引金額が経過年数に応じて賃料月額の2倍ないし3.5倍強にとどまっているほか、更新料1ヵ月分の他には礼金等他の一時金の支払義務を負っていないこと
5 本件Aの事例は、当初賃料月額17万5000円(更新後は月額17万円)、保証金100万円で、敷引として60万円を保証金から控除するという特約であって、敷引金額が賃料月額の3.5倍程度にとどまっているほか、近傍同種の建物についての敷引金の相場に比して大幅に高額であることもうかがわれず、更新料1か月分の他には礼金等他の一時金の支払義務を負っていないこと
 以上のように、最高裁判所は、「敷引特約」条項にも消費者契約法が適用されるが、契約締結にあたり賃借人が「敷引特約」条項を承知しており、また不合理といえないから、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきときは消費者契約法10条により無効となることがあるとしても、本件いずれの場合も、高額にすぎると評価されるものではないとしたものです。
 なお、最高裁判所は、過去に、阪神淡路大震災で賃貸建物が滅失した場合には「敷引特約」条項を有効であるが適用できないと判断しています(平成10年9月3日第一小法廷判決)

 


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