判例の小窓 bR(平成23年11月) 



【コメント】
 最高裁判所は、大株主がいて株式市場に流通している株が実は僅かで、従って株価が不安定なのに有価証券報告書等に虚偽の記載をして大株主の存在を長く隠していた会社について、知らずに(つまり騙されて)株を取得した新株主が、虚偽の判明により暴落した株価について損害賠償を請求できるとして、下記のような判決をしました。損害額をどのように判定するかが問題です。

最高裁判所平成23年9月13日第三小法廷判決(破棄差戻)

 有効有価証券報告書等に虚偽記載のある上場株式を市場で取得した投資者が、その虚偽記載がなければ株式を取得しなかったとみるべき場合において、被った相当因果関係のある損害金額の算定方法

西武鉄道・機関投資家事件判決

1 Y会社(被告)の株は昭和24年から東京証券取引所に上場され、昭和40年8月から平成16年12月16日まで継続して市場第一部に上場されていた。
2 東京証券取引所の上場廃止基準には、以下の定めがある。
  少数特定者持株数(多い順に10名の株主が有する株式及び役員が有する株式の総数)が80%を超えて、1年以内に80%以下にならないとき財務諸表等又は中間財務諸表等に虚偽記載を行いかつその影響が重大と認めたとき公益又は投資者保護のため上場廃止を適当と認めたとき
3 Y会社は、昭和32年3月期から平成16年3月期まで、有価証券報告書に、A社が過半数の株を有するのにその名義株のみ記載し、他人名義の株を記載せず、過半数を有することも記載しなかった(虚偽記載)。代表取締役(被告)はこの記載の虚偽を知っていた。
4 有価証券報告書では、Y会社の少数特定者持株数は継続して80%を超えていたのに常に80%以下、A社の有する株式は常に半数以下にとどまるとされていた。
5 Y会社は平成16年10月13日になってA社の他人名義の株が判明したなどとして訂正報告書を提出し、公表した。(公表前に同日の取引は終了していた。)
6 東京証券取引所は、同日Y会社の株を、虚偽記載及び保護基準該当として監理ポストに割り当て、更に同年11月16日に、同年12月17日上場廃止すると決定し、12月16日まで整理ポストに割り当てる旨を公表した。16年12月17日上場廃止となった。
7 X(原告)らは、平成8年から16年10月13日までの間に取引所においてY株式を取得し、本件公表後上場廃止までの間に市場において全部売却した機関投資家又はこれから損害賠償請求権の譲渡を受けた者である。
8 Y会社の株価は、平成16年10月13日が1株1081円、東証の決定のあった同年11月16日が268円、最終取引日である12月16日が485円であった。(公表後下落し、その後反転している。)
9 原審(東京高裁)は、株価が急激に下落したのは虚偽記載が判明したことによる減価の現実化であるが、虚偽記載の公表直後はろうばい売りが集中し市場価額が客観的株価より過大に下落する傾向がみられることや本件虚偽記載が財務状況や企業価値そのものに関するものではなかったから、売却差額の損失が虚偽記載から通常生じる結果ではないとして、総合勘案の上、民訴法248条(損害の発生が認められるが性質上その額の立証が極めて困難な場合、裁判所は相当な損害額を認定できる。)を適用して、公表日の終値の15%相当額とした。
投資家側がこの判断を不服として上告受理申立をした。
10 最高裁は、次のように判断して、原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、東京高裁に差し戻した。
 すなわち、虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は、その取得価額と処分価額との差額を基礎として、経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して算定すべきものであるとした。その上で、虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち、いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は、虚偽記載の判明により通常生ずることが予想される事態であって、これを虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず、上記差額から控除することはできないというべきであり、しかも本件では公表後の市場価額について、虚偽記載と無関係な要因による下落があったことはうかがえないとした。
 そして、このようにして算定すべき損害の額の立証は極めて困難であることが予想されるが、そのような場合には民訴法248条により相当な損害額を認定すべきであると結論ずけ、事件を東京高裁に差し戻した。(つまり、原審が民訴法248条により相当な損害額を認定したことを是認しながら、ろうばい売りによる下落分を損害から外したことを判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反としたものである。)
11 なお、田原睦夫裁判官は、補足意見の中で、機関投資家は、有する株式が上場廃止が想定される監理ポストに割り当てられることが明らかになれば、即売却の方針を採る以外選択の余地は原則として存しないと指摘している。
 本件は西武鉄道事件といわれるものであるが、第三小法廷は、同じ平成23年9月13日に一般投資家関係でも判決を言い渡しており、こちらの方が長文で判例集にも登載された。本件は、平成19年金融商品取引法に改正される前の証券取引法施行当時の事件である。

(参考)
 さて、最近報道されているオリンパスの場合、オリンパス株を急きょ売却した投資家はどの程度まで保護されるか?  オリンパスの有価証券報告書の虚偽記載の内容は積年に亘る巨額の債務隠しと資産水増しと思われ業績そのものの虚偽記載であり、株価は疑惑が表面化する直前の1株2500円台から約1か月で最安値424円まで暴落し、東証が監理銘柄に指定してから740円(11月16日)まで戻している。
  なお、東証は、上場廃止の恐れのある株式であることを投資家に知らせるために、もとは監理ポストに割り当てるといっていたが、現在では当該株式そのものを監理銘柄と称している。株式市場における売買取引は、値幅制限(ストップ安、ストップ高)があるが可能である。上場廃止と決まれば整理銘柄に指定された上、1か月後に上場が廃止され、株式市場での取引ができなくなる。

 


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