判例の小窓 bV(平成23年12月) 



【コメント】
 最高裁判所は、銀行が当座取引契約に基づき会社から満期に交換決済を得るための手形を預かっていたところその会社が民事再生手続をとり再建された場合でも、期日に相手先から支払を受けた手形金を再生会社に支払わず銀行との取引約定に基づき同会社の債務の弁済に充当することができるとして、下記のとおり判決しました。銀行取引約定さえあれば、相殺の意思表示など要しないので銀行にきわめて有利な判決で、民事再生手続を経た会社も銀行から手形金を受け取ることができません。

最高裁判所平成23年12月15日第一小法廷判決(原判決破棄・自判)

 会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は、法定の手続によらず同会社の債務の弁済に充当できる旨の銀行取引約定に基づき、同会社が民事再生手続をとった後でも、その手形の取立金を同会社の債務の弁済に充当することができる。

1 被上告人(原告)Xは、建築請負業等の株式会社であるが、銀行である上告人(被告)Yとの間で当座取引口座を開設し、約束手形の取立を依頼していた。その銀行取引約定には、Xは支払いの停止又は破産・民事再生などの申立があったときは、Yからの通知が無くても、一切の債務について期限の利益を喪失し、直ちに債務を弁済するという条項のほか、Xの不履行の場合には、Yは、担保及びその占有しているXの動産、手形その他の有価証券について、必ずしも法定の手続によらず一般に適当と認められる方法、時期、価額等により取立て又は処分の上、その取得金から諸費用を差し引いた残額を法定の順序にかかわらずXの債務の弁済に充当することができるという条項がある。
2 Xは、平成20年2月民事再生の申立をして、再生手続開始の決定を得たが、このときYに対し少なくとも9億6866万円余の当座貸越債務を負担していた。Yは、Xの再生申立前に、Xから多数の約束手形について取立委任のための裏書譲渡を受けており、商法521条の商事留置権を有していた。Yは、Xの再生手続開始後、各手形を順次取り立て、合計5億6225万円余の取立金を受領した。Yは、この取立金をXの当座貸越債務の弁済に充当することは別除権の行使として許されるという。Xは、これが許されないとして、不当利得返還請求訴訟を提起した。(商事留置権を先取特権とした破産法66条に相当するものが民事再生法にはない。)
3 原審(東京高裁)は、留置権は留置的効力のみを有するもので、優先弁済権を付与されていないから、Yが商事留置権の行使によって優先的に弁済を受けることはできないとし、再生債権者が再生手続開始後に債務を負担したときは相殺が禁止されるから留置権者は再生手続開始後に受領した取立金を再生債務者に返還しなければならないとして、Xの請求を認容した。
4 最高裁判所(第一小法廷)は、留置権者が留置権による競売が行われた場合に換価金を留置することができるのであるから、本件のように留置物である約束手形が取立により取立金に変じた場合にも取立金を留置することができるものと解するのが相当であるとし、その額が被担保債権の額を上回るものでない限り再生の原資に宛てることを予定できないものであり、民事再生法88条(別除権超過額につき再生手続参加)、94条2項(別除権超過額の再生債権届出)の規定を考慮すると、この取立金を法定の手続によらず債務の弁済に充当できる旨定める銀行取引約定は、別除権の行使に付随する合意として民事再生法上も有効であるとした。Yは取立金をXの債務の弁済に充当することができるのであり、法律上の原因を欠くということはできないとして、上告人Y敗訴の原判決を破棄し、第1審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。(裁判官5人全員一致) (金築誠志裁判長の詳細な補足意見がある。)

 


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