判例の小窓 bW(平成24年1月) 



【コメント】
 最高裁判所は、公立学校の教職員らについて卒業式等で国歌斉唱の職務命令に従わないことにつきなされた行政処分のうち、戒告は処分歴を問わず一律であっても有効、減給や停職は直接の給与上の不利益及び将来の昇給等にも影響が及ぶので一律に処するのは無効と判断して、下記のとおり同じ日に二つの判決しました。この事件には個人の内心の自由の保護と公務員の職務との関係で難しい部分がありますが、これを問題にせずに、給与上の不利益及び将来の昇給等の経済的な側面を重視したといえます。

1 最高裁判所平成24年1月16日第一小法廷判決(原判決一部破棄・自判、大半上告棄却)
  公立学校の教職員らが卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる校長の職務命令に従わなかったことによる戒告処分が違法とはいえないとされた事例
減給処分が裁量権の範囲を超えるものとして違法とされた事例

2 最高裁判所平成24年1月16日第一小法廷判決(原判決一部破棄・自判・差戻、一部上告棄却)
 停職処分が裁量権の範囲を超えるものとして違法とされた事例
 停職処分が違法とはいえないとされた事例

1 本件1では、東京都立高等学校又は東京都立養護学校の教員や職員であった一審原告らが、平成15、16年頃、所属校の卒業式その他の式典において、国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること(起立斉唱行為)又は国歌のピアノ伴奏を行うこと(伴奏行為)を命ずる校長の職務命令に従わなかったところ、東京都教育委員会から懲戒処分(1名は減給処分、その余は戒告処分)を受けたため、この処分を違法として、処分の取り消しと国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた(うち1名は損害賠償請求のみ。)。
 学校教育法に基づく高等学校学習指導要領には「入学式などには…国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」との定めがあり、養護学校にも準用されている。戒告処分を受けた一審原告らには同種行為による処分歴はなかったが、減給処分を受けた一審原告には過去に入学式の服装及びその後の事実確認に関する校長の職務命令に従わなかったことについて戒告処分がなされていた。
2 原審(東京高裁)は、本件職務命令は違法ではないとした上で、本件戒告処分及び減給処分は、都教委が懲戒権者としての裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するもので違法であるとして一審原告らの処分取消請求を認容し、損害賠償請求はこれをもって慰謝されるとして棄却した。双方が上告した。
3 最高裁判所(第一小法廷)は、本件職務命令が憲法19条(思想、良心の自由)に違反するものでないことは過去の大法廷判決の趣旨に徴し明らかであるとした上で、不起立行為等が積極的な妨害行為ではなく、式典が混乱したという事実の主張立証もないが、教育上の行事にふさわしい秩序を維持する必要があり、戒告処分が規律違反を確認し将来を戒めるもので、法的地位に直接の職務上ないし給与上の不利益を及ぼすものではないことも併せ考慮し、過去の同種処分歴の有無にかかわらず、懲戒権者の裁量に属する事柄として、都教委の戒告処分を違法とはいえないとし、原判決を取り消し、控訴を棄却した(一審原告らの請求を棄却した一審判決が確定)。
 減給処分については、直接の給与上の不利益及び将来の昇給等にも影響が及ぶ上、本件一審原告の場合過去の戒告が約2年前の入学式の際の服装とその後の事実確認に関する職務命令に違反したもので、式典妨害行為ではなく、当該1回のみで、本件不起立の前後における態度に加重を根拠付けるべき事情もうかがえないことから、都教委の判断は、減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するの相当であるとし、原判決中この部分の判断を是認し、一審被告の上告を棄却した。(裁判官5人中4人一致。宮川光治裁判官は本件職務命令が憲法19条に違反し無効である、そうでないとしても本件処分は重すぎて裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用するものであるとして、戒告処分に関し反対意見。)(櫻井龍子裁判官と金築誠志裁判長の補足意見がある。)
4 本件2では、東京都の立川市立中学校に勤務する教員(上告人X1)が平成18年3月の卒業式で職務命令に従わず国歌斉唱に際し起立せず着席し、又、東京都立養護学校に勤務する教員(上告人X2)が平成18年1月の同校創立30周年記念式典において職務命令に従わず国歌斉唱に際し起立せず着席した。都教委は、平成18年3月、X1を3か月の停職処分、X2を1か月の停職処分にした。X1は過去に5回の懲戒処分と2回の訓告(国旗引き降ろしによる減給、抗議文書の配布による訓告、批判文書配布による訓告、協議会不出席違反による減給、卒業式不起立による減給、入学式不起立による停職、服務研修時ゼッケン着用と抗争による研修妨害で減給)を受けていた。また、X2は、過去に2年度に3回の懲戒処分(平成16年卒業式国歌斉唱時の不起立で戒告、同年入学式不起立で減給、平成17年3月卒業式不起立で減給)を受けていた。X両名は、いずれも、職務命令が違憲、違法であるとして、停職処分の取り消しと国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求した。
5 一審及び原審(東京高裁)は、本件職務命令は違憲、違法ではないとした上で、各停職処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものではなく適法であるとして、請求を棄却し、控訴を棄却した。
6 最高裁判所(第一小法廷)は、本件職務命令が憲法19条に違反するものでないとした上で、X2について、過去2年度の3回の卒業式等における不起立による懲戒処分を受けていることのみを理由にX2に対する停職処分を選択した都教委の判断は、停職期間の長短にかかわらず、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、上記停職処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価免れないとした。次に、X1について、同種の問題に関して規律や秩序を害する程度の大きい積極的な妨害行為を非違行為とする複数の懲戒処分を含む懲戒処分5回及び文書の配布等を非違行為とする文書訓戒2回を受けていることを踏まえてX1に対する懲戒処分において停職処分を選択した都教委の判断は、停職期間(3月)の点を含め、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、上記停職処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえないとした。原判決のうちX2の請求に係る部分を破棄し、停職処分取消請求を棄却した一審判決を取り消して同請求を認容し、損害賠償請求部分は更に審理を要するため原審に差し戻した。X1に関しては上告を棄却した(X1の請求を棄却した一審判決が確定)。(裁判官5人中4人一致。宮川光治裁判官の反対意見がある。)なお、起立斉唱の職務命令が憲法19条に違反しないことについては、平成23年5月30日第二小法廷、同6月6日第一小法廷、同6月14日第三小法廷(いずれも都、都教委関係)、同6月21日第三小法廷(広島県教委関係)がある。


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