判例の小窓 bP2(平成24年3月) 



【コメント】
 最高裁判所は、有価証券報告書等に虚偽の記載があるのにこれを信じて市場で株を取得した株主について、会社に対し、被った相当因果関係のある損害の全ての賠償を認め、下記のとおり判決しました。株式市場で騙された株主の保護にはなりますが、それ以前から保持していた株主は金融商品取引法では保護されず、かえって会社が損害賠償責任を負うために株価低下や会社倒産の危険を負担することになります。


最高裁判所平成24年3月13日第三小法廷判決(原判決一部変更・自判)

 会社が有価証券報告書等に虚偽の記載をしたことにより金融商品取引法により賠償責任を負う場合において、記者クラブに加盟する報道機関に虚偽記載容疑がある旨伝達した検察官は、同法21条の2第3項にいう「法令に基づく権限を有する者」に該当する。

 同法21条の2に基づく損害賠償債務は、不法行為として、損害の発生と同時に、かつ、何らの催告を要することなく、遅滞に陥る。

                                       ライブドア株主損害賠償請求事件

1 被上告人(原告)Xらは、取引市場において上告人会社Yの株式を取得したが、公衆の縦覧に供されたYの有価証券報告書に、連結決算において実際には約3億円の経常赤字であったのに約50億円の経常黒字である旨の虚偽記載があったことにより損害を被ったと主張して、金融商品取引法(旧証券取引法、以下金商法という。)21条の2に基づき、上告人(被告)Y会社に対し損害賠償を求めている(第1ないし第7事件が併合されている)。
2 Yは、平成8年4月に設立され、インターネット関連の各種事業を営んでいた。Bは、Yの筆頭株主で設立から平成18年1月までその代表取締役の地位にあった。Y株は平成12年4月から平成18年4月まで東京証券取引所マザーズに上場されていた。YはIT分野のベンチャー企業の代表格と評され、Bとともに動向がマスメディアに取り上げられていた。
3 Yは、Bの指示ないし了承の下、平成16年12月27日、同年9月期の連結決算について、実際には約3億1278万円の経常赤字であったのに、認められない売却益、架空売上を含めるなどして、経常利益を50億3421万1000円と記載した内容虚偽の連結損益計算書を掲載した有価証券報告書を関東財務局長に提出した。この報告書は公衆の縦覧に供された。
4 東京地検は、平成18年1月16日夜、Bを含むYの役員らについて金商法違反(偽計・風説の流布)の容疑があるとして強制捜査に着手し、同月23日Bらを逮捕した。同庁検察官は、平成18年1月18日司法記者クラブに加盟する報道機関の記者らに対し、Yが平成16年9月期決算(単体)において、Y傘下のF社とG社の預金を付け替えることで約14億円の経常黒字を粉飾した有価証券報告書の虚偽記載の容疑がある旨伝達し、その頃その旨の報道がされた。Yの株価は、強制捜査開始直前の同年1月16日には終値が696円であったが、翌17日には制限値幅下限の596円に急落し、翌18日には個人投資家による売り注文が殺到し取引停止の事態となり、その後も6営業日連続で制限値幅下限まで値下がりを続け、同月24日には終値が176円まで暴落した。Y株の終値は、本件開示日前1か月間の平均が720円、本件開示日後1か月間の平均が135円であるので、その差額(金商法21条の2第2項によって推定される1株当たりに損害額)は585円である。なお、本件強制捜査着手後、Y社につき金商法違反の疑いがあることやY株につき上場廃止に向けた動きがあること、Y株が値下がりを続けていることなどがマスメディアにより広く報道された。
5 原審(東京高裁)は、本件虚偽記載と相当因果関係があるとはいえない事情による値下がり分は、E会社の完全子会社化をめぐる報道による値下がりであり、上記585円の1割にとどまるというべきであるから、同条5項により、上記推定損害額の1割を賠償の責めに任じない損害の額とし、Xらの請求を一部認容した。
6 最高裁判所(第三小法廷)の判断
@ 検察官は、捜査権限を有しており有価証券報告書等の虚偽記載や訂正についても正確な情報を入手できるので、金商法21条の2第3項にいう「当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者」に当たる。
A 同条第3項にいう「虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項」について多数の者の知りう得る状態に置く措置がとられたというためには、当該有価証券に対する取引市場の評価の誤りを明らかにするに足りる基本的事実について、知り得る状態に置く措置がとられれば足りると解するのが相当である。検察官の報道機関への開示をもって金商法21条の2第2項にいう「虚偽記載等の事実の公表」があったといえる。
B 有価証券報告書等の虚偽記載によって損害を被った投資者は、民法709条など一般不法行為の規定に基づき損害賠償を請求することが可能であるが、金商法21条の2は、投資者保護の見地から、一般不法行為の特則として、立証責任を緩和した規定である。
C 同条第1項においては請求できる額を同法19条1項により算出した額を上限としているが、同法21条の2第1項にいう「損害」は虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含むものと解されるところ、同条第2項は損害を推定する規定であるから、損害の全てを含むものであり、これを取得時差額に限定すべき理由はない。(注、「取得時差額」というのは、虚偽記載のある有価証券報告書等の縦覧期間内に株式を市場で取得した投資者の取得額と、仮に虚偽記載がなく正しい記載がされていたとした場合に想定される価額との差額を言い、虚偽記載が後に明らかになったことによりマスメディアの報道や会社に対し証券取引所がとった措置等の諸事情により下落した損失部分を含ましめない。)
D 同条第5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり」とは、取得時差額相当分の値下がりに限られず、有価証券報告書等の虚偽記載と相当因果関係のある値下がりの全てをいうものと解するのが相当である。
E 本件虚偽記載及びその発覚によって売り注文が殺到しY株が大幅な値下がりすることも通常予想される事態であるから、本件値下がりは虚偽記載と相当因果関係があるというべきであり、推定損害額の1割を賠償の責めに任じない損害額とした原審の判断はその裁量の範囲内にあるものとして是認できる。
F 投資者が複数回にわたってそれぞれ異なる価額で有価証券を取得し、これを複数回にわたってそれぞれ異なる価額で処分した場合において、その主張立証がされていない場合には、裁判所は総額比較法により請求可能額を算定することができる。
G X2が自ら行った取引の分と、Hが行った取引の受託者の地位をX2が譲り受けた分とは、損害額が各取引終了時に確定しているから、両者を区別することなく法19条1項限度額の総額及び推定損害額の総額をそれぞれ算出した原審の判断は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
H 同法21条の2に基づく損害賠償債務は、不法行為として、損害の発生と同時に、かつ、何らの催告を要することなく、遅滞に陥る。

7 第三小法廷は、上告人Y敗訴の原判決中、上記Gの関係で一部を変更し、その余の上告を棄却した。(裁判官5人中、4人の多数意見。金商法による株主救済としては会社に対する損害賠償を取得時差額相当分に限ると解すべきだとして、原審差し戻しを主張した岡部喜代子裁判官の反対意見がある。)

金融商品取引法18条ないし21条の2の骨子
第18条(届出者等の賠償責任)
1項  有価証券届出書のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、……重要な事実の記載が欠けているときは、…届出者は、当該有価証券を取得した者に対し、損害賠償の責めに任ずる。……
2項  前項の規定は、……目論見書……に準用する。
第19条(賠償責任額)
1項  前条の規定により賠償の責めに任ずべき額は、請求者が取得について支払った額から次の各号の一に掲げる額を控除した額とする。 一 損害賠償を請求する時における市場価額
二 当該有価証券を処分した場合はその処分価額
2項  賠償の責めに任ずる者は、値下がりが……虚偽記載、記載欠如以外の事情により生じたことを証明した場合には、その全部又は一部について、賠償の責めに任じない。
第20条(賠償請求権の時効)
第18条の規定による請求権は、……知ったとき……から3年間これを行わなかったときは、消滅する。
第21条(届出書の提出会社の役員等の賠償責任)
(略)
第21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
1項  第25条第1項各号に掲げる書類のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、……重要な事実の記載が欠けているときは、…提出者は、公衆の縦覧に供されている間に提出者を発行者とする有価証券を取得した者に対し、第19条1項により算出した額を超えない限度において、損害賠償の責めに任ずる。……
2項  前項本文の場合において、虚偽記載等の事実の公表日前1年以内において有価証券を取得し公表日前におい引き続き所有する者は、公表日前1月間の市場価額から公表後1月間の市場価額を控除した額を、損害の額とすることができる。
3項  前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、……業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、……重要な事実について公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。
4項  (略)
5項  ……損害が虚偽記載による値下がり以外の事情によって生じたことが認められ、かつ、損害額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない額として相当な額の認定をすることができる。
 
以上


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