判例の小窓 bP4(平成24年4月) 



【コメント】
 生命保険及び医療保険について、保険会社が月払い保険料の払い込みがないとして保険約款により契約が失効したと主張したのに対し、契約者がその約款は消費者に不利益なものであるから消費者契約法10条により無効であると主張し、原審(東京高裁)も約款を無効と認める判決をしたのに対し、最高裁判所は、保険会社の上告を受理し、その約款が消費者の利益を一方的に害するものに当たらないとして、下記のとおり判決しました。
 最高裁判所は、保険料不払いの場合に履行の催告なしに保険契約が失効するという約定は消費者の権利を制限するものであることを認めながら、月払い保険料の払い込みがないとその翌日に直ちに失効するという定めではなく、また、長期間払い込んできた人の場合には自動貸付条項で不払いがカバーされる措置があり、更に事実上督促を行うという実務の運用があり、保険契約が多数の人を対象にしていることなどを考えると、本条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものには当たらないと判断しました。
 消費者の権利を制限する約款であることを認めながら、本件の場合対象にならない自動貸付条項の存在、事実上督促を行うという実務の運用(被上告人に通知したというものではない)、多数の人を対象とする保険契約の特質に言及して、保険会社を一方的に保護して消費者の保護を拒否し消費者契約法10条をないがしろにする不当な判決と思われます。 


最高裁判所平成24年3月16日第二小法廷判決(破棄差戻)

 保険料の払い込みがなされない場合に履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定める約款の条項は、消費者契約法10条にいう「民法1条2項に規定する基本原則に反して、消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解される。

1 被上告人(原告)Xは、上告人(被告)Y保険会社との間で、平成16年8月1日に医療保険契約を、翌年3月1日に生命保険契約を締結した。本件各保険契約は、消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。
2 月払い保険料の弁済期と保険契約の失効については、約款に次のような条項がある。
 @ 保険料は月の初日から末日までに払い込む。
 A 第2回目以降は、不払いの場合、翌月の初日から末日までを猶予期間とする。
 B 猶予期間に払い込みがないと、保険契約は猶予期間満了日の翌日に効力を失う。
 C 猶予期間が過ぎた場合でも、保険料と利息の合計額が解約返戻金の額を超えないときは、自
    動的に貸し付けて保険契約を有効に存続させる。但し年8%以下の所定利息で計算する。
 D 失効した日から1年以内(医療保険の場合)又は3年以内(生命保険の場合)であれば、保険
    契約者は保険会社の承諾を得て保険契約を復活させることができる。
3 本件では保険料は口座振替の方法によるとされていたが、平成19年1月を払込期月とする保険料が口座の残高不足のために払込がされず、同年2月中にも払込されなかった。
4 原審(東京高裁)は、第2回目以降の保険料の弁済期限は、本件約款に定められた猶予 期間の末日であり、本件失効条項は、弁済期限の経過により直ちに保険契約が失効することを定めたものであるとし、自動貸付条項及び復活条項は契約者が受ける不利益を補う手段としては十分でなく、不払いが生じたときに実務上振込の督促を行って きた否かは本件失権条項の効力を判断するに当たって考慮すべき事情に当たらないと判断して、消費者契約法10条により無効であるとして、Xの請求(生命保険契約等存在確認請求)を認容した。
5 最高裁(第二小法廷)は、次のように判断して、Yの上告受理申立を認めて原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した。
 すなわち、第2回目以降の保険料の払込期限は当月末日であり、翌月の末日までは猶予期間であり、猶予期間内に不履行が解消されない場合には保険契約が失効する旨定めたものである。本件失効条項は、保険料の払込がなされない場合に、履行の催告(民法541条)なしに保険契約が失効する旨を定めものであるから、任意規定の適用の場合に比して、消費者である保険契約者の権利を制限するものである。
 しかし、保険料の払込を遅滞しても猶予期間が与えられ、一定期間内に解消されない場合に初めて失効する旨が明確に定められ、その期間は民法541条により求められる催告期間よりも長い1か月とされている。加えて、自動貸付条項が定められ長期間保険料が払い込まれた場合に1回の不払いによって失効しないように権利保護を図るために一定の配慮がされている。さらに、上告人は保険料の払込の督促を行う実務上の運用がなされていると主張し、そうだとすれば、通常、保険契約者は不払いに気付くことができると考えられる。そして、多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質をも踏まえると、本件失効条項は信義に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらないと解される。(裁判官4人中3人の多数意見)
 裁判長裁判官須藤正彦の原判決を相当とする強い反対意見がある。同意見の中には「払込督促の実務の運用が確実にされているとしても、それが事実上のものである限り、事業者たる保険会社が消費者の正当な利益を考慮せず、迅速かつ低コストの事務処理という自己の利益を専ら優先させて消費者たる保険契約者の基本的かつ重大な利益を損なっているものとみるほかない」という指摘がある。


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