判例の小窓 bP9(平成24年9月) 



【コメント】
 被告人は、「平成21年9月☆日午前6時30分頃から午前11時50分頃までの間、金品窃取の目的で東京都○区B荘C号室D方に侵入して現金1000円及びカップ麺1個を窃取し、室内にあった石油ストーブ内の灯油をカーペット上に撒布した上、何らかの方法で点火して床面等に燃え移らせC号室の一部を焼損させた。」として、住居侵入、窃盗、現住建造物等放火の罪名で起訴されました(裁判員裁判)が、住居侵入及び窃盗の事実を認め、放火は何者かが行ったもので、自分が行ったものではないと主張しました。他に1件北海道での住居侵入、窃盗の起訴事実があるがそれは認めています。
 検察官は、被告人が窃盗に入って欲する金品が得られなかったときは放火に及ぶという前刑放火と同様の動機に基づいて本件放火に及んだとして、前刑前科の判決書謄本、前刑の被告人供述調書謄本15通、本件捜査において作成された前刑放火の供述調書1通と、本件放火の特殊性等に関する警察官証人1人の取調を請求しました。第1審(東京地裁)は、前刑判決書謄本を情状立証に限定して採用し、その他を全部却下し、判決で本件放火事件については無罪とし、住居侵入、窃盗を有罪としました。検察官が控訴。
 原審(東京高裁)は、本件放火と関連性がある部分を特定しないで調書を全て却下した第1審の措置には法令違反があるとして、第1審判決を破棄して、事件を東京地裁に差し戻す判決をしました。これに対し弁護人側が上告しました。
 最高裁判所第二小法廷は、原審の判断を否定し、第1審の判断を是認した上で、事件を東京高裁に差し戻しました(他の控訴理由が原審で判断されていない模様。)

最高裁判所平成24年9月7日第二小法廷判決(破棄差戻)

 前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いることが許されないとされた事例

 最高裁(第二小法廷)の理由。前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであるときに、初めて証拠として採用できるものであって、単に反復累行している事実をもって認定することができないことは明らか(実証的根拠の乏しい人格評価による認定)で許されず、前刑放火11件は服役期間を挟んで17年前の犯行で、また被告人は本件の前後約1か月間に合計31件の窃盗、同未遂があると具体的に上申しているが起訴されておらず、これらのうち十分な金品を得ていない事案で放火があったいう事実がうかがわれず、本件のみ被告人の犯罪傾向が発現したと解することは困難である。前刑放火の事実から放火の犯罪性向があるという人格評価を加え、これをもとに被告人が本件放火に及んだという合理性に乏しい推論をすることに等しく、このような立証は許されない。(裁判官4人の全員一致)  


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