判例の小窓 bQ9(平成25年8月) 



【コメント】
 Yは、昭和45年3月建築当時から鉄道線路高架下の建物(本件建物)を所有していたB会社を平成14年に吸収合併したものであり、所有者としての本件建物の設置保存の責任を昭和45年から負っています。本件建物の壁面の一部にはクロシドライト(石綿の成分)を25%含有する吹きつけ材が約3pの厚さに吹き付けられ露出し、電車の往来による振動で粉じんが飛散しやすい状態にあり、昭和61年ないし62年頃以降は粉じんが目立って飛散していました。Aは、昭和45年3月から平成14年5月まで本件建物の文具店店長として勤務し、石綿の粉じんにばく露して、悪性胸膜中皮腫に罹患し、同年7月にその旨の診断を受けて治療中、平成16年7月20日自殺しました。
 一審(大阪地裁)は、Yに建物所有者としての責任を認め、原審(大阪高裁)は、同様に責任を認め損害賠償額を上積みしてXの請求を認容しました。Yが上告受理申立。 最高裁判所は、原審が、本件建物が通常有すべき安全性を欠くと評価される時期を明らかにしなかったとして破棄して、事件を原審に差し戻しました。
 原審は、一方、昭和49年頃には石綿粉じんの健康被害を指摘する書籍が出版され、昭和62年頃には文部省で公立学校の吹きつけ石綿の実態調査が実施されたと認定し、他方昭和61年ないし62年頃以降は本件建物で粉じんが目立って飛散していたと認定しています。この時点で本件建物が通常有すべき安全性を欠くとみたと思われます。

最高裁判所平成25年7月12日第二小法廷判決(破棄差戻)

 原審が、壁面に吹き付けられた石綿が露出している建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった時点を明らかにしないまま、同建物の設置又は保存の瑕疵の有無について判断したことに審理不尽の違法があるとされた事例

 最高裁(第二小法廷)の理由。
 Yが土地工作物責任を負うか否かは、当該建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるのはいつの時点か、Aが石綿の粉じんにばく露したことと悪性胸膜中皮腫発症との間に相当因果関係が認められるかなどを審理して初めて判断することができる。
 原判決は、吹きつけ石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性が指摘等がされるようになった過程について第1審判決を引用して説示するだけで、結局のところ、本件建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを明らかにしないまま、Aが本件建物で勤務していた昭和45年3月以降の時期における本件建物の設置又は保存の瑕疵の有無について、平成7年に一部改正された政令及び平成17年に制定された省令の規定による規制措置をも根拠にして直ちに判断していると解されるのであって、上記のような観点からの審理が尽くされていない。(裁判官4人の全員一致  補足意見なし)


  判例の小窓一覧へ   判例の小窓28へ   判例の小窓30へ